舞台 コインロッカー・ベイビーズ(2018)覚え書き 前半

2018年に上演された、舞台コインロッカー・ベイビーズ(再演)のセリフ覚え書き(一幕)です。

この記事の筆者は当時10回ほど観劇し、公演期間中に覚え書きしていたものを修正しました。忘れてしまい抜けている部分や間違えた言い回しがあるかもしれませんが、多めに見ていただけますと幸いです。(※原作やネットでセリフを検索掛けし補填した部分もあります。)

また、どうしても修正が必要な箇所があった場合はコメントで指摘していただけますと助かります。

 

この舞台が好きな方には思い出の想起に、見たことはないけれど気になっている方がいましたら舞台の雰囲気を少しでも掴む手助けになりましたら幸いです。

 

※量が多いため、権利等に引っかかってしまう場合は削除します。大丈夫そうであれば、後日続きをアップしようと思います。

 

※音楽劇のため、劇中歌や音楽付きのセリフなどは ♪ で囲ってあります。〈〉は場面転換がわかりやすいようこちらの独断で付けています。

 

 

〜一幕〜

 

駅員:あついな…だめだろ、吸い殻捨てちゃ…
…だめだろ、ロッカー開けっぱなしじゃ!

 

(天の声:あついよ… あついよ…)

 

 

コインロッカー・ベイビーズ
見てくれ 俺のこの腕(こうなるはずだった)
力持ち よく働くぜ(そうなるはずだった)
だけどおいら赤ん坊なのさ 捨てられたんだ
コインロッカーに捨てられたんだ
ママに パパに 未来に 神様に

 

見てよ アタシのこの脚(こうなるはずだった)
素敵でしょ 男イチコロ(そうなるはずだった)
だけどアタシ赤ん坊なのよ 捨てられちゃった
コインロッカーに捨てられちゃった
ママに パパに 未来に 神様に

 

神様なんていやしない
助けて 早く助けて 息が苦しい
柔らかな頰が ちっちゃな手が
暑さに干からびる 干からびて 死んでゆく

 

音が消えた 鼓動が消えた
光が消えた 世界が消えた
世界が遠ざかる…

 

固く閉ざされた 冷たい箱の中
音が遠ざかる 光が遠ざかる
鉄に囲まれた 四角い箱の中
命が消えていく 捨てられ死んでいく

 

すべてを奪ったのは 神様
ううん ううん
ママ(ママ ママ ママ ママ…)

 

 

 

アネモネタクシードライバー

 

‪運転手:降ってきましたねえ、雨ですよ、雨。天気予報じゃもう梅雨も終わりだって言ってたのに。おばあちゃんに言われたんです。NHKの天気予報と三省堂の英和辞典だけは信用しろって、おばあちゃん大学出たんですよ、えらいよねえ、大正生まれなのに。

 

♪ (アネモネ
肉… 肉…

 

運転手:コラー!!割り込むんじゃねーー!!!お客さん、大学生?もしかして音楽大学?どうして僕が音楽大学って推理したか、わかります?肩の筋肉モリモリのピアノ科、顎に傷持つバイオリン科、がに股のチェロ科ってね、観察眼、鋭いでしょ?タクシーの運転手じゃないみたいでしょ?

 

♪(アネモネ
ガリバー…ガリバー…

 

運転手:お客さん、無口だねえ、疲れてるのかなあよくないなあ、普通、天気の話をしたら何か返ってくるんだよねえ、蒸しますねー、とか。ま、僕は広いから、心がさ。ところでお客さん、行き先どこでしたっけ?

 

♪(運転手(アネモネ))
どこだ
どこに行くんだ(ガリバーが)
オレ本当に(待ってる)
忘れちゃったよ(肉)
どこいったらいいかわかんねえよ

 

アネモネ:代官山です

運転手:そうそう!代官山!だーいーかーんーやーま!
あー!!お客さんあれじゃない!?テレビのコマーシャル出てるでしょ!?シャンプーが目に入って赤い目のうさぎちゃんになっちゃうやつ!!そうか女優さんか〜!…まてよ、今日は金曜か、今日は金曜か!!!!あのね、先週占い師に見てもらったら金曜日に僕の一生を変える人が現れて、運命が変わるって!!そうか、君のことだったんだ〜〜!!

 

♪(運転手)
目だよ その目だよ
運命を変える目なんだよ

 

プーップーッ(クラクションの音)

 

運転手:うるせーーー!!!うるせーうるせーうるせー!!うるせーーーっ!!!こんな渋滞で僕の人生がどんどん終わっていっちゃうよ…。あっ、そうだ!僕と一緒に逃げませんか。勝浦に会社の小さな別荘があるんです。あ〜でも金がいるか〜あんたは金のない男は嫌いそうだからな。ん?ここは山手通りか。ここを真っ直ぐの交差点に、知り合いが闇賭博の事務所持ってるんです。やな奴なんですいつも僕なことを馬鹿にするんで!!…ちょっと行って、金を借りるついでに、刺してきます、じゃ。ふふふ〜。

(外に出てアネモネに手を振るタクシードライバー

 

(タクシーから出るアネモネ 雨が降っているかを確認し、タクシーのトランクから馬肉を取り出す)

 

運転手:いや〜ごめんごめん遅くなっちゃって。あれ、帰ってこないと思ったの?やだなあそんなことしないって。ほら乗って、早く早く。

 

(血塗れのままタクシーに乗り込む運転手)

 

運転手:意外にあっけないもんですね人間の肉って柔らかいんだなあ、ゼリーみたいでした、ぷるっ、なんて。さあ、行こう、金はある。

 

♪(運転手(アネモネ))
さあ行こう(肉)
海へ行こう(肉が腐る)
明日の朝 あなたは目覚める(ガリバーが待っている)
2人のため 海は輝き始めてる(肉が腐る)
君は裸のまま 虹のような瞳を閉じて(肉が腐る)

 

運転手:何するの!!

アネモネ:触らないでそんな汚い手で!!!

運転手:今から僕たちは海に行くんだよ?こんな汚い手、海に入ればすぐ綺麗になるよ。

アネモネ:そんなことしてたら馬肉が腐っちゃう!ガリバーの夕食が腐っちゃう!

運転手:ガリバーって誰だよ!!

アネモネ:あたしのワニよ!!!

運転手:なんだワニか、ワニなんか海に行けばいくらでもいるよ。

アネモネ:離して!あんたなんか大っ嫌い!

運転手:そっか、嫌われたならしょうがない。諦めるよ、海は諦めるよ。あんなみたいな綺麗な人と海に行けたらどんなにいいかって思ってたけど

 

♪(運転手)
もう やめたよ

 

アネモネ:冗談じゃないわ、あんたなに、汚いのよ臭いのよ!!!

運転手:僕は臭いのか?

アネモネ:初めて会ったわ、あんたみたいに臭い奴!

運転手:臭いかーっっ!!臭いってかーー!!!

 

アネモネに襲いかかるタクシードライバー
(通りがかったキクがタクシードライバーを鉄パイプで殴る)


運転手:…お前…誰だよ…。

 

キク:よう、知り合い?

アネモネ:…誰が。

キク:あっそ。(タクシーに乗るキク)…乗る?

 

(タクシーに乗り込むアネモネ、発進するキク)

 

アネモネ:待ってどこ行くの。

キク:人を探してる、ハシ。

アネモネ:ハシ?

キク:俺キク、あんたは?

アネモネ:…アネモネ

 

 

 

〈医師によるハシとキクの精神エネルギーについての解説〉

 

♪(シスター)
キクとハシまだ幼い2人

 

医師:遺伝性の精神病を除き、幼児や児童の神経症は、親との関係、環境因子(維持?)、この二つが問題になります。

 

♪(シスター)

 

医師:お電話いただいてから興味を持って調べてみたんです。コインロッカーで発見されたほとんどの幼児は、死体遺棄として発見されました。コインロッカーで生き残ったのは横浜と、それから新宿で発見された2人だけなんですね。

 

♪(シスター)
可哀想な2人

 

医師:生後数十時間で死に直面した彼らの無意識下の恐怖と、それに激しく抵抗して勝ったという記憶は、2人の脳のどこかにセットされているはずです。それはエネルギーです。莫大なエネルギーです。そのエネルギーに方向性を与えるまでこれから何年もかかるでしょう。


♪(シスター)
oh〜

 

医師:有効と思われる治療法があります。音を聴かせるのです。母親の心臓の音です。もう一度彼らを母親の体内に眠らせるのです。

 

♪(シスター)
音?

 

医師:人間の心拍です。胎児が母親の体内で聞く音ですね。マサチューセッツで開発された治療法ですがすごいものですよ。圧倒的な安心感と安らぎを覚えます。カトリックのあなたたちには失礼かもしれませんが、かつてキリストが与えた安堵感とは、ああいうものだったのかもしれませんね。

 

(医師の電話が鳴る)

医師:なに?よく聴こえないの。

 

 

♪(ハシ・キク)
音が聴こえた 何かが聴こえた
光が見えた 世界が見えた
見えたのは海 海 海

 

 

医師:治療はほぼ終わっています。エネルギーは眠りについたのです。この後大切なのは、変わったのは自分たちだと、ふたりに知らせないことでしょう。心臓の音を聞いたなどと教えてはいけません。変わったのはこの子たちではないのです。この、世界の方なのです。

 

 

 

佐世保のショッピングモールにて〉


♪(シスター)
あれから13年
キクとハシから手紙が
2人ともいい人に貰われて

 

和代:あ〜楽しかった!

キク:あんなのが?

和代:もうお腹の中ぐるぐる、ぐるぐるって感じ!

ハシ:さっき食べたオムライスが回ってるんだね。

和代:美味しかった?

キク・ハシ:うん。

和代:そうよねえデパートで食べると違うもんねえ。

司会者:皆さん、カナエちゃんに拍手を!拍手を!

ハシ:あ、梨本カナエだ。

和代:知ってる?

キク:いや。

司会者:カナエちゃんは昔、サーカスにいたんだよね?猛獣使いカナエちゃん?

カナエ:得意なのは…催眠術です♪

司会者:ではこの中で、催眠術にかけてもらいたい人いますか…?おっ、いますね〜でも、催眠術って怖くない?

カナエ:あのお、昔私シングル出したんです。売れてなくて歌も下手だったんですけど…そのシングルの題名、わかる人いますか?

ハシ:…哀愁の花びら。

カナエ:正解だわ!ありがとう、こっちへ!

司会者:念のため聞くよ、精神病にかかったことは?

ハシ:ないよ。

 

(ステージ上の椅子に座るハシ)

 

カナエ:それじゃあみんな、物音を立てちゃダメよ。咳払いもダメ、くしゃみもダメよ。

 

(カナエがハシに催眠術をかける)


ハシ:…波の音だ。

カナエ:…お名前を教えてちょうだい。

ハシ:…桑山橋男。

カナエ:橋男くんは今どこにいるの?

ハシ:ハワイ。

カナエ:ハワイのどこ?

ハシ:海、海の上。

カナエ:ハワイはど〜お?

ハシ:…あついよ。

 

カナエ:橋男くんはハワイで何をしてるの?

ハシ:昼寝。

カナエ:もう起きた?

ハシ:うん、キクと魚釣り。

カナエ:キクって?

ハシ:兄弟。…本当は友達。

カナエ:他には?

ハシ:和代さん。…お母さん。

カナエ:…橋男くんもういいわ、ハワイは暑くて嫌だから帰りましょ。

ハシ:帰る?帰るってどこへ?

カナエ:小さい頃に戻っちゃうの。時計がぐるぐるぐるぐる逆回りして、もう、赤ん坊なの!どう?

ハシ:あつい…あついよ…!

カナエ:橋男くんどうしたの!?あなたはまだ産まれたばかりの…

 

 

♪(ハシ)
助けて 早く助けて 息が苦しい
柔らかな頰が ちっちゃな手が
暑さに干からびる 干からびて……

 


キク:やめろーーーーーー!!!!!

 

(絶叫しながら逃げるハシ)

 

キク:ハシ!ダチュラだ!!ダチュラだー!!!

 

 

 

〈子どもの頃の話・薬島に跳ぶキク〉

 

アネモネダチュラって?

キク:ガゼルが教えてくれた、まじないだ。

アネモネ:ガゼルって?

キク:船乗り。

 


ガゼル:キク、ハシ、俺は狂犬病になった奴を見たことがある。そいつは喉から手を突っ込んで自分の肺を掻き毟ろうとした!

 

キク:俺たちが野犬に襲われそうになった時、バイクに乗って助けに来てくれた。

 

ガゼル:狂犬病と言われたら、映画館へ来い。

 

キク:廃墟の映画館に住んでた。

 

ガゼル:俺が肺を掻いてやるよ。…ダチュラ


 

キク:それからハシは学校へ行かなくなった。テレビばかり見ていた。

 

ハシ:キク、僕ね、狂ったわけじゃないんだ、あるものを探してるんだ。憶えてるかい?子供のとき、2人で病院に行って映画を見ただろう?波や、グライダーや、熱帯魚の映画。あの時僕ら、催眠術をかけられたんだ。

 

 

♪(ハシ・キク)
(ハシ)あれね音なんだよ 音を聴いていたんだ
綺麗な音だよ 死にたくなるような
死んでもいいような

(キク)そうか 音だったな

(ハシ)音を聴いていたんだ 不思議な音だよ
海に沈むような 空に浮かぶような
いつまでも続くような

(ハシ)キクも聴きたい?
(キク)いや
(ハシ)あの音 聴きたくないの?
(キク)今は聴きたくない

(ハシ)でもね音なんだよ
音を聴いていたんだ 確かに音だよ
もう1度聴けたら 死んでもいいような
あの音を探してる テレビで探してる
探してる

 


キク:ある日俺が学校から帰ってくると、ハシはテレビの前で震えていた。

 

ハシ:あの人、知ってるんだ。

キク:どうした。

ハシ:女だよ!作家なんだ。テレビで言ってた、赤ん坊をコインロッカー に捨てた時、ブーゲンビリアの花びらを撒いた母親がいるって、僕、今でも持ってるんだ、僕の周りに撒かれていた花びら、あれ、ブーゲンビリアなんだよ!

キク:だったらどうする。

ハシ:会うよ。

キク:どうやって。

ハシ:ねぇお金貸して。見たいんだ、見るだけでも見たいんだ。しゃべったり、歩いたりしてるの。気付かれないように、そっと見たいんだ。

 


アネモネ:それいつの話?

キク:半年前。

アネモネ:何故今になって探すの?

キク:和代が、お母さんが心配した。

アネモネ:お母さんは?

キク:…5日前、ホテルで死んだ。血を吐いて、可哀想だった。

アネモネ:それでここへはどうして?

キク:女に聞いた。

アネモネ:女?

キク:黒い肌の女だ。あそこ、化学物質の汚染地域なんだろ?やばい奴は大抵向こう側にいる。

アネモネ:今じゃこっち側の方がおかしいけど。

キク:だったら、ハシは尚更向こう側にいる。

アネモネ:…どうする気?

キク:跳ぶ。

アネモネ:跳べるの?

キク:全国大会まで行った。

アネモネ:見つかったら撃たれるわよ!警備容赦無しだから。

キク:だろうな。

アネモネ:跳ぶとこ撮っていい?

キク:何故。

アネモネ:友達になったら撮るの!記念になるでしょ。…あんた、ガリバー怖がらなかったわね。

キク:あの鰐か?だってお前が飼ってるんだろ。

アネモネ:かわいい?

キク:でかすぎる。

アネモネ:また来る?

キク:どこへ。

アネモネ:あたしの部屋!

キク:…わからないな。

アネモネ:来てよ!…来てよ、いつでもいいから。

キク:…跳ばなきゃ。

 

(キクが薬島の塀?鉄条網?を跳び越える)

 

アネモネ:キャー!ハハハ!ハハハ!!

警備の声:動くなー!!!動くと撃つぞーー!!!…おい、撃ち殺したっていいんだぞ、こっち側に来ちゃったらよお…!!

 

(銃声)

 

アネモネ:…キク?キク!!!

キクの声:ガリバーによろしく。

アネモネ:……キク!!

 

 

 

〈ハシとの再会〉

 

タツオ:見たよ見たよなあ!?警備兵が吹っ飛ぶところ!この拳銃、三弾も発射できるんだぜすごいだろ、リバレーターっていうんだ、リバレーターだよ!解放者って意味なんだぜ、かっこいいだろ。…なんだお前、もう一発撃ってやろうか!?いやダメだじじいがいる地震じじいだ、そいつは銃声を聞くと銃声より大きな声で、地震ダアーーーー!!!!って叫ぶんだ……。

キク:地震で酷い目にあったんだろうな。

タツオ:…運動選手が喋った…運動選手が喋ったぞ!!!よっっっっしゃあ!!!!やったあ!!!よかったな!!!おい、ここは、いいとこだろ、俺は!いい奴だろ?

キク:そうだな。

タツオ:よし、よしよしよし、気分が良い、そうだ、薬、薬買ってこよ、薬、薬。

キク:こんな時間に薬局やってんのか。

ハシ:ここは都会だからね。キク、僕もう行かなきゃ。仕事してるんだ。

キク:おまえは口紅塗らないと仕事できないのか。

ハシ:キク頼むよ、今頭が破裂しそうなんだ、急に来るんだもん、明日にしよう、明日色々話そう。…ねえ、ミルクは元気?

キク:…心配なのは犬だけか。

ハシ:そういうわけじゃ…

キク:ミルクは元気だが、和代が死んだ。お前に骨を持ってきてやったよ。俺たちの大事なお母さんの骨だぞ。

ハシ:………。

 

 

♪(キク)
―和代はな、新宿でお前を探してるとき、通行人に突き飛ばされて頭打って死んだんだ!なあ!覚えてるか!?

憶えてるか あいつ時々
夜中に布団の上に座ってたろ
自分がどうやって死ぬのか考えてたら
怖くて眠れなくなったって
泣きながらオレ達を抱いただろう

あいつホテルのギシギシいうベッドで
血吐いて 顔中血に塗れて
死んだよ

 

 

ハシ:…僕もう行かなきゃ。

キク:お祈りしてけよ10秒で済むだろ。

ハシ:急ぐんだよ本当に急ぐんだよ!!明日にしようって言ってるじゃない!僕の都合も考えてよ!

キク:なんの都合だ!

タツオ:おい!ハシをいじめるな!

キク:うるせえ!

タツオを突き飛ばしてハシの胸ぐらを掴むキク)

キク:おい、お前母親に会うんじゃなかったのか、お前を捨てた女には会ったのか!?なんか言えよ!!

ハシ:ごめんなさい、ごめんなさい、僕は勝手だ、恥ずかしい、キク!!

(キクの脚元にしがみつくハシ)

 

♪(ハシ)
僕  歌手になりたかったんだ

 

キク:…歌手だと!?

ハシ:!!危ない!!

 

バンッッ!!!!タツオが拳銃を発砲する)

 

地震じじいの声:地震だーーーー!!地震だぞーーー!!!)
タツオの声:ハシをいじめるな!ハシをいじめる奴は俺が許さないぞ!!)

 

キク:…お前、騒がしいところに住んでるんだな。

ハシ:…うん。

 

 

 

〈Dの登場〉

 

ハシ:キク、僕はこの街が好きだよ、化粧したり、騒いだり、歌うのが好きだ。ねえキク、僕はホモなんだよ、キクはいつだって強かったろ、羨ましかった、僕みたいに弱虫じゃないから、綺麗だった、器械体操は綺麗だったもん、だから側にいるの、耐えられなくなったんだ、自分が恥ずかしくなったんだ。あの人、Dって言うんだ、ものすごい金持ちなんだ、僕を歌手にしてくれるって、ねえ、僕はホモなんだよ、ひどいだろ、でも、どうしようもないんだ。

D:ハシ!歌え。

 

 

♪青い舌(ハシ)
紫の霧の彼方から 貴方を誘うよ
僕が誘うよ
青い舌で舐めたい 貴方のすべてを

蕩けそうさ 弾けそうさ
柔らかい肌の窪みに のめり込みそうさ

 

ーD:踊れ!

 

蕩けそうさ 弾けそうさ
柔らかい肌の窪みに のめり込みそうさ
貴方に 貴方に

 

 

D:おいあれ友だちやろ、紹介してくれ。

ハシ:うん。

キク:ハシ、よくわかった、俺は帰る。

ハシ:キク。

ハシ:好きにしろ。だが俺のことを変な奴らに話すのはやめてくれ。

D:なんや?変な奴って誰や、俺のことか?

キク:さわんな!

 

 

♪(D)
見てみ ハシが困ってるやないか

ええか ここの連中はな
好きで淫売やっとんのや
乞食に優しゅうしたらあかん
乞食によおしたったら
若者に向上心が無くなる

僕は君に偉そうにすな言うとんのや
恥売っとるやつにえばられたん初めてや
ケツの穴見せとるもんに
好きなこと言われたらかなわんわ

 

(キクが殴りかかろうとするも、ボディーガードに取り押さえられる)


ーD:腕折ったれ、腕折ってひいひい言わせたれ
ーハシ:Dやめて!友達は口下手なだけなんです。
ーD:わかっとる、わかっとるがなハシ、でもな、これはお前にも言えるんやで。甘えとんのや!食うのに困ったことなんかないやろ?

 

コインロッカーに捨てられたくらいで威張るな
そんな子供 世界中に何万とおる

 


(再び殴りかかろうとするキク)
ハシ:キクだめ!この人大切な人なんだよ、帰りなよ、キクは帰って体操やりなよ。


Dそのへんにしといてやれ、ハシついてこい、いいもん見せたる。

ハシ:うん。

(Dについていこうとするも一度キクのもとに駆け寄るハシ)
ハシ:…大丈夫?

キク:…ダチュラ

 

 

 

〈キクとアネモネ/ハシとニヴァ〉

 

(電話越しの会話)

サチコ:私あの頃が一番綺麗だったんだわ。

アネモネ:あの頃って?

サチコ:裸でビリヤードしたり、イブニングのままプールに飛び込んだり。私やっとわかったことがあるの、努力を買えるのは、血と汗と涙だけなのよ、アネモネどう思う?

アネモネ:よくわからないわ。

サチコ:そうよあなた若すぎるもの。でもあなたみたいな若い人を見てると私苛立つことがあるの。なんとなく毎日楽しければいいっていうのいけないわ。

アネモネ:別に楽しくなくたっていいのよ。

サチコ:アネモネ、あなた欲望ってものがないんでしょう?スーパーマーケットみたいになんでも揃ってる時代に生まれたから、何が欲しいかわからないんだわ。

アネモネ:よくわからないけど、私は待ってるのよ。

サチコ:何よそれ、待ってたって何もこないわ。

アネモネ:よくわからないけど。…いや、わかってる、サチコ、あなたは閉じ込められてるの、生まれた時からずっと、初めて毛皮のコートを着た時も、イタリアの外交官とヤッた時も、公式行事の最中に欠伸しちゃった時からずっと。もう一つわかってる、あたしはキクが好き。

 


♪(アネモネ
あたし キクが好き
痺れるほど本気
それから 高いビルも好き
だって東京は沈むんだから

沈む 沈む みんな沈む

バスも電車もタクシーも(沈む)
黒く光ったリムジンも(沈む)
バーもパブもクラブも(沈む 沈む 沈め)
ネオンきらめく街並も
呂亭 フレンチ イタリアン(沈む)
ワイン豊富なレストラン(沈む)
花屋 ブティック 洒落たギャラリー(沈む 沈む 沈め)
宝石だらけのショーウィンドウ

沈む 沈む みんな沈む
誰1人助からない
跡形もなく消え去る
東京は沈むんだから
東京が沈んだら 残る地上は
ビルだけになるんだから

 

ピンポーン(インターホンの音)


アネモネ:ごめん、誰か来たみたい。メールちょうだい、送れるでしょミラノからでも、じゃあね。

 

(ドアを開けるアネモネ、倒れかかるキク)

 

アネモネ:キク!ちょっ…どうしたのいきなり!…キク?キク!ちょっとあんた何したの!?…拳銃!?

 

 

 


D:紹介するわ、ニヴァや、ピカイチのスタイリストやで。

ニヴァ:どうも。

ハシ:初めまして。

D:お祝いや、飲め。

ニヴァ:私にはウイスキーを。

ハシ:お酒?僕飲んだことないよ。

D:ええかお前、これからはな、おしゃれせなあかん。

 


♪オシャレせな(D)
オシャレせえ
オシャレせなあかん
オシャレはな お前知っているか
脱がされるためにするんや
涎垂らして見とるもんに
お前のアソコをな お前のアソコをな
想像させるためにするんやで

 

ーキク:ミルク、そっちへ行ったらだめだ、そっち行ったら危ない!

アネモネ:ねえキク、キスして、キスしてよ

 

オシャレせえ
オシャレせなあかん
オシャレはな お前知っているか
裸になるためするんや
隠すもんは何も無いと
お前の全てを お前の全てを
さらけ出すためにするんやで

 

ーキク:痛っ!
アネモネ:あたし舌を噛んじゃった!あなた舌は柔らかいのね身体中硬いのに!…嬉しかったの、舌だけが柔らかくて、嬉しかったの!

 

(酔って意識が朦朧としたままニヴァの胸元を触るハシ)

ーハシ:…!ごめんなさい!
ーニヴァ:いいのよ、酔ったのね。
ーハシ:あんた、その胸…
ーニヴァ:そう、ないの、取っちゃった。乳癌だったわ。おかげで離婚できて清々したけど。
ーハシ:すごい…勃っちゃった。
ーニヴァ:は!?
ーハシ:女で勃ったのは初めてなんだ。

 

オシャレせえ オシャレせな
オシャレせな あかん

ありがとうございました

 

 

 

〈拳銃はどこだ〉


テレビ:馬鹿げてる、ただ馬鹿げてる。我が社が開発した抗うつ剤ガバニアジドが、実は精神兵器ダチュラだと?ダチュラの効き目は極めて強力なものですよ。ASP25の数十倍、ネスカリンに比較すれば百万倍にも達します。ごく少量で作用し抑止系の伝達物質を消滅させてしまう。症状は…いや、症状というより新たな生命の誕生と言った方がいい。瞳孔は広がり、緑色の泡を吹き、筋肉が鉄のように硬くなる。さらに目に止まったものを破壊し、生き物を殺し始める。人体実験の対象になった囚人兵はフットボールを押し潰し破裂させたと記録されています。そんな精神兵器を医薬品として用いるなんて不可能だ。そもそも条約によりダチュラは禁止されています。封印され海深く眠らされているのです。な…

(テレビの電源を切るキク)

キク:嘘つきの言い回しだな。

アネモネ:当たり、結局この製薬会社はダチュラの投与を認めたの。

キク:こんなビデオ、どこから持ってきた。

アネモネ:テレビ会社の…、資料室?

キク:…ダチュラ

アネモネ:まじないの方?それとも精神兵器?

キク:この街を真っ白にできる薬だ。

アネモネ:ねえキク、もう拳銃なんて持ち歩かないでよ。あんなの殺せてせいぜい一人か二人よ?

キク:おい、あれをどこに隠した。

アネモネ:そんなことより、びっくりすること教えてあげる。

キク:なに。

アネモネ:あたし、鰐の国の使者なの!

 


♪鰐の国(アネモネ
あたし 可愛いし 太ってないし
健康で お金持ちなの
人に嫌われたってちっとも堪えないし

 

アネモネ:わかる?
―キク:なにが

 

あたし 鰐の国の使者よ
つまらないことなんか 考えなくっていいって
鰐の神様に許されてるの

 

―キク:鰐の国ってどこだ
アネモネ:あたしの暗くて柔らかなベロの奥!
―キク:どこだ、どこにいるワニの神様は!

アネモネの口の中を覗くキク)

 

あたし 賢いし こだわらないし
大胆で 冒険好きかも
どこに連れて行かれても 決してへこたれないし
あたし鰐の国の使者よ
つまらない生き方を かなぐり捨てていいって
鰐の神様に許されてるの

 

そうよ鰐の国の使者よ
この街を食いちぎるため
ある男を あなたを
あたし助けるよう
鰐の神様に命じられてるの

 


アネモネ:鰐の国もあたしも、あんたを必要としてる、だから巡り会ったのよ。

アネモネの元に電話がかかってくる)

アネモネ:はい、…あなたによ。

(電話をキクに差し出す)

D:俺や、Dや。

キク:…どうしてここがわかった。

D:えらいべっぴんさんと住んどるようやな。

キク:切るぞ。

D:ちょい待ち!そこにハシおらんか?

キク:いるわけないだろ。

D:そうか…。

キク:ハシがどうかしたのか。

D:お前知らんのか、テレビつけてみ!

 


キャスター:ハシ!歌うハシ!あなたのハシ!あのハシの過去が、今夜明かされる!コインロッカーに捨てられたシンガーと、その母親との感動的な再会!

 

ハシ:会えないよ…!

 

キャスター:今夜、今夜八時!

 

 

♪拳銃はどこだ(キク)
拳銃はどこだ

 

アネモネ:どうする気?
―キク:自分を捨てた女に無理矢理会わせたらハシは死ぬ!
アネモネ:どうして?
―キク:どうして!?

 

オレとハシは捨てられたんだ
産んだ女から この世界から
「死ね」「いらない」 そう言われた
死ね 死ねだと お前らが死ね
いらない いらないだと
いらないのはお前らの方だ

 

―キク:自分を捨てた女に会わせるだと!?

 

俺なら捨てた相手を殺す
ハシならきっと自分を殺す

拳銃はどこだ

 

アネモネ:……言わない
キク:出せ
アネモネ:嫌よ!
キク:どこだ、どこへやった!
アネモネ:あたしとあのオカマどっちが大事!?
キク:言わねえとぶっ殺すぞ!

 

アネモネが泣きながら出した拳銃を取り走り去るキク)

 

アネモネ:キク!キク待って!!

 

 

 

〈母親との再会〉


客:効く〜〜!!…ん?どうした?

沼田君枝:頭痛がすんのよ、ちょっと休ませて、その後にちゃんとするから。

 

キャスター:沼田君枝さんですか!沼田君枝さんですよね!?

沼田君枝:あんたたち、なんなの?

キャスター:安心してください。あなたのお子さんは立派に成長し、今夜、あなたの元に帰って来られるのです!

沼田君枝:なんなの、なんなのなんなのよ!

 

 

D:ハシは見つかったか?

ニヴァ:こっちへ向かってくるわ。ハシからなの、もうすぐここにくるって。

 

バンッッ!!(銃声、キクの登場)

 

キク:ハシ!ハシはどこだ!

D:お前!

キク:寄るな!!

ハシ:キク!ここだよ。

 

(ハシに手を差し出すキク)

 

キク:ハシ、…俺と一緒に帰ろう。

ハシ:ねえD、その人どこ?どこにいるの?

 

沼田君枝:うぅ…。

ハシ:キク、来て、会わせたい人がいるんだ。

 

(キクの手を引き沼田君枝とキクを対面させるハシ)

 

ハシ:この人、キクのお母さんだよ!僕、作家に会ったんだ。昔テレビで見た作家に会って聞いたんだ。僕を産んだ女は死んじゃったんだって。だからこの人、キクのお母さんなんだって!


キャスター:なんということでしょう!意外な事実が明かされました!我々は今、真実に迫ろうとしています!

D:なるほど。よお似とる。

キク:お前ら…騙したのか!!

沼田君枝:やめなさい、……私を撃ちなさい。

キク:寄るな…寄るな寄るな寄るな!!!

 

(発砲するキク)

(地面に倒れこむ沼田君枝)

 

キク:……う、うわ、ああ…ああ…!!うわあーーーーーー!!!!!!!

 

 

 

 

舞台コインロッカー・ベイビーズ(2018再演) 覚え書き 一幕 終

 

 

舞台コインロッカー・ベイビーズを観る前又は後に原作読む時間ない人向けの補足メモと考察

音楽劇「コインロッカー・ベイビーズ」再演おめでとう。

◇これは舞台コインロッカー・ベイビーズを観劇予定、または済みの原作未読者のかたに読んでいただきたい補足メモです。

コインロッカー・ベイビーズ気になって観に行く、または観に行ったけど原作読み返す時間がない、そこまでする気力がない、でもブログ読む程度の時間と気力ならある、というかたに読んでいただいて、少しでも舞台を楽しんでいただけたら、原作の魅力を知っていただけたら、幸いです。

 原作を読んでいるかたは、知ってるわそんなこと!ということばかり書いてあるので、すみません…。すごく舞台を楽しみにしているかた、モチベーションの下がることが書いてあるかもしれないので、気をつけてください。

 

 文章がへたっぴですが、大目に見てくださると嬉しいです。がんばって、丁寧に書きます。7000字程で長いですが、観劇前と後で分けているので、3500/3500字くらいです…。

 

個人的に今回観劇してみて、原作のこの部分を補足したらもっと役のお芝居の見方が際立つだろうな、と思ったところをまとめています。

f:id:supportstore:20180713155041p:image

このブログより公式サイトのあらすじ読んでおけばとりあえず話の展開は分かると思います。本末転倒ですが…。

コインロッカー・ベイビーズ| PARCO STAGE

 

⚠︎原作のネタバレが入ります!というかほぼ原作の受け売りです。(考察も少しだけ)舞台の演出ネタバレはなるべくしない方向ですが後半少しあるので注意です、原作とか気にせずまずは舞台を楽しみたい、という方はお控えください。

 ◇は観劇前に押さえておきたいこと、舞台ではあまり触れられませんが、知っていた方が話がわかりやすいと思います。◆は舞台観劇後に原作と擦り合わせた個人的な考察、補足です。

 

 

 原作の物語構成では、

①孤児院での生活(ハシキク幼少期)

②島での生活(小学〜中学生頃)

③東京での出来事(16〜17,18歳頃)

④ハシとキクの末路

の4つに分かれていると思います。

舞台では③での展開が主にされています。

個人的には①②がとてもあとあとの展開に響くので、ここの部分をもう少し舞台で描写してほしかった…。

 

以下、話の展開に沿って補足しています。

◇主人公ハシとキクの関係について

二人はコインロッカーに捨てられた孤児で、一緒の孤児院で育つ。コインロッカーに捨てられた赤子で生き延びたのはこの二人だけ。

この過去が二人の関係の核あり、全て。共存関係。そしてどこか対極的。

幼少期ハシ:生まれつき体が弱い。キク以外の人との関わりを拒む。

幼少期キク:ハシをいつも助ける。こわい大人から、いじめから。

原作抜粋

 キクにもハシが必要だったのだ。キクとハシは肉体と病気の関係だった。肉体は解決不可能な危機に見舞われた時、病気の中に退避する。

 

◇幼少期の自閉

ハシは神経系の喘息で微熱が下がらなく、キクと遊べなくなってから奇妙な飯事に熱中する。(豊かな自閉)ガラクタを並べたり、時には破壊したり。飯事を妨げた女の子の首を締めようとするなどの異常行動を度々起こす。

一方そんなハシの姿を見たキク

キクは身代わりに泣いてくれる傷が癒えるのをただ待てばよかったのだ。ハシは模型の傍で眠るようになった。ハシはキクとは無関係にミニチュアのために怯えたり泣いたりする。傷は肉体を脱して自立したのだ。傷は自らの中に閉じ籠ることができるが、傷を失った体は新しい傷を求めなくてはならない。

 (恐らく傷はハシ、肉体はキクのことを比喩しています)

ハシが自閉的になったことにより(?)キクも自閉的になる。急激な空間移動。(貧しい自閉)一人でタクシーに乗って遠くまで行ったり、ジェットコースターに無表情のまま乗り続けたり。この行動は何か大きな回転体が轟音をあげて飛び立とうとしているという強迫観念、回転体が自分を吹き飛ばそうと、置いていこうとする恐怖感、不安感に抵抗するためだと思われる。

医者曰く、二人にはコインロッカーに捨てられ死に直面した時の無意識下の恐怖と、それに自分が激しく抵抗して勝ったということが脳の記憶回路にセットされており、その二人を生き延びさせた強大なエネルギーを制御できなく、自閉症になってしまった。らしい。(このエネルギーが二人の精神状態の根底にあると思われます。)

しかしこれらは、精神医の治療によりエネルギーを封じ込めることに成功する。(ヤッタネ!)

治療とは、音を聴かせること。母親の心臓の音。(ちなみに、2人はこの治療を治療として自覚していません。シスターからは映画を見よう、くらいにしか言われていません。)

 「あの二人の子供は、自分達が変わったという自覚を持ってはいません、世界が変わったのだと思っています。」

 

◇島での生活

来年小学校入学という年の夏、 二人は双子の兄弟として西九州の離島の夫婦に養子にもらわれる。

(ここの場面が原作だとすごく綺麗に、儚く書かれていて話の展開においてとても重要なポイントなのに、舞台だとぽっかりない…!)

・進入禁止の無人の街、廃墟の探検

・小学校での出来事

・海での思い出

など…(舞台と関連してるのはこのへんかな)

廃墟の探検、ここはハシとキクの城。二人だけの秘密の場所で二人の遊び場。ここで野犬に襲われかけ、廃墟に住んでいるガゼルに助けられる。(その話は後ほど)

小学校の出来事、ハシが母親について同級生にからかわれた時、キクはその同級生を半殺しにする。←キクの暴力の目覚め(普段は物静かな性格)

海での思い出、(舞台では海も大事なキーワードになっているので…、これは考察ですが、二人が離島に来たのも、海が見えるからで、孤児院で海の絵を見ていたり、自閉の治療の際に海の映像を見ていたり、ゆかりがあるものなんだと思います…)島での生活でもよく遊んでいる。砂浜ではキクが走ったり、棒高跳びの練習をしている。

そして2人が中学生になり、服を買いに和代(義母)と佐世保のデパートへ行った時、ハシはショーの催眠術にかけられたのを境に、自分の中の抑え込んでいたエネルギーが爆発し、再び自閉的になってしまう。今度は引きこもりがちになりテレビの音を延々と聴くようになる。かつて聴いた音を探している、という。

キクはハシを元気づけようと廃墟にいた子犬を拾おうとする。(ここで拾った子犬の名前がミルク)そこで再び野犬に襲われるが、ガゼルに助けてもらう。

◇ガゼルとダチュラ

ガゼルは髭を生やした男。いかつそうだけどやさしい。

 キクはガゼルの住む廃墟の映画館で初めて棒高跳びの映像を見る。そこからキクは跳ぶことによって自分の衝動を発散できると感じ、棒高跳びに打ち込み始める。※舞台では器械体操に変わっています。(ハシが幼少期の頃の状態に戻ってしまった一方、キクは棒高跳びをすることによって、幼少期の頃から怯えていた恐怖に打ち勝つ術を手に入れたのだと思います。ハシとキクの精神の対比。)

ダチュラ」はキクがガゼルから教わったまじないの言葉。

「お前には権利があるよ、人を片っぱしからぶっ殺す権利がある、おまじないを教えてなるよ」

「おまじない?何の?」

「人を片っぱしから殺したくなったらこのおまじないを唱えるんだ、効くよ、いいか覚えろよ、ダチュラダチュラだ」

ダチュラとは、本来は毒物で神経兵器。

とにかくやばい薬。服用すると凶暴化し強烈な破壊衝動に苦しむ。これを使いキクは後に東京を爆撃しようとする。

 

◇ハシ、東京へ それを追うキク

ハシはある日テレビで作家(小説)のインタビュー番組を見ていた時、自分を捨てた母親らしき人物の話が上がり、自分が探している音と母親の手がかりが東京にあると考え、ハシは姿を消してしまう。

キクはハシと一緒にそのテレビを見ていたため、きっと東京にいるだろうとハシを追って東京に向かう。一緒に和代も付き添うが、東京の悪い奴らに絡まれたり、頭を打ったりして弱り、泊まっていたホテルで死んでしまう。

 

舞台ではその後、キクはハシを探し続け再会した後の話を主に展開しています。

ハシとキクの関係は幼少期と島での生活で培われた、一言では言い表せないほどの深い絆があるということを、少しでも伝わればいいなあ、と思います。舞台でその描写は一切ないので…舞台でキクがハシにものすごく執着するのはこれらの過去があったからなのかな…?

 

ここから先は原作と舞台を擦り合わせた考察・感想含む補足説明、舞台の中身の話も少ししてるので、ネタバレだめな方はお控えください…。一緒に観劇した友人(コイベビ未読)の観劇後の不明点を参考にしています。観劇後に読むのがおすすめ。

 

◆キクが東京を爆破しようとする理由

原作でキクが東京を爆破させようと初めに描写されているのは、和代の死に直面したときです。キクはこの時、コインロッカーで生まれた時と同じ声を聴きます。

壊せ、殺せ、全てを破壊せよ、赤い汁を吐く硬い人形になるつもりか、破壊を続けろ、街を廃墟に戻せ。

キクは東京をコインロッカーの中と重ね、和代のように死んでいくのではなく、東京(コインロッカー)を破壊し、大きな産声(東京を爆破すること)をあげて外の世界へ生きようとしているんだと思いました。(舞台ではその描写は少しもないけど、原作読む限りそう感じた。)

 

薬島について

薬島とは、浮浪者、精神病者、乞食、オカマ、家出少年などのヤバイ奴らが集まるスラムみたいな化学物質の汚染区域で鉄条網で隔離されています。

ハシとキクが再会する場所。舞台ではキクはハシがここにいる!と思って薬島にポイっと乗り込むけれど、原作では薬島にある「マーケット」にダチュラがあるという手がかりを掴み、多分ハシもここにいるだろうな、みたいなノリだった気がする。

ハシがなぜ薬島にいたのかは原作で描かれているハシの歌の性質と関係していますが、ハシは歌い方によって聴き手の心情を動かす力があるようなので、その歌い方の研究対象として、薬島の人々に歌を聴かせていました。(見せ物として、なので化粧をしています。) タツオ(拳銃の男)とはその間に出会い、一緒に暮らしている。

ちなみにキクとアネモネが出会うのも原作ではタクシーで助けたのではなく、薬島の鉄条網を飛び越えるために運動場でキクが棒高跳びの練習をしていた時に出会う。

(タクシーのシーン、原作では狂った運転手が人を殺したあと薬島に迷い込み、一悶着あり、そのあとアネモネは最初にハシと会ってる。)

 

◆ハシの歌について

なんで舞台でここの描写が全然ないんだよおおおおおおおお音楽劇でしょ!!!!!!ハシの繊細な声の描写もっとあっても良かったじゃん……。

聞こえてくる鳥の鳴き声がゆっくりと旋律に変わった。初めてハシが歌っているのに気が付いた。不思議な声だ。とても小さなスピーカーから響いてくるような声質、部屋の片隅の転がった電話の受話器から洩れている音に似ている。ハシの歌声は流れずに立ち込める。旋律を発する極薄の膜が耳を包み込んだようだ。弱々しく感じられる音は肌に貼り付き毛穴から体に侵入して記憶の回路を揺さぶった。振り切ろうとしてもだめだった。歪んだ視界が色を失い匂いや温度が切り離されて、ハシの歌の旋律が作る幻覚が現れた。

これは考察だけど、原作ではハシは自分の歌で自ら心臓の音のような安堵感を探していたのかなと思った。それなのに、病んで舌を切って声質を変えた時は酷くショックだった。ハシの声の描写が好きだったから。ハシがどんな思いで声を変えようとしたか描写してほしかった、音楽劇なんだし、ここだけは……。

でも、青い舌の妖艶な歌とダンスは、すごく良かった…。ここでハシの全部を掴まなきゃいけない、大切な部分。これのためにお金払ったよ、もう。今のキク役が後半にハシをやるんでしょう?すごい、楽しみすぎる。

 

◆Dとハシ

原作:ハシが東京での生活中にDと出会い、ハシはナンパされて一緒にレストランへ、そのあとハシはDに体を預ける。(ホモの目覚め)そこでハシはDに自分の歌を聴かせ出生の話をしてしまう。Dはそれを聞いてこれは売れるぞ!お前は歌手なれ!と言う。ハシは歌手なる決意をする。(ざっくり)

ハシは、ずっとキクを羨ましく思っていて、自分の存在意義について考えていたんじゃないかな。

でもDは自分の歌を見出してくれた、必要とされたい、強くなりたいという気持ちがハシを歌手にさせたんじゃないかと思う。

 

◆キクが母親を殺す場面で思うこと

目の前にいるのはハシの母だと思っていたのに、それは自分の母親だったという衝撃と、ハシにそれを告げられたという裏切られ感はハンパない。

ハシわかったぞ、お前はガラクタの山を作って俺を放り込んだんだな、泣いている振りをして俺を騙したんだな。

いつでもハシを守ってきたのはキクだった。ハシのことを理解できるのは自分だけだ。そのはずなのに、ハシは向こう側にいた。この絶望感と目の前で起きている状況に板挟みになっているキクを思うと心が痛い。キクはハシの傍にいるし、東京まで行くし、ハシがお母さんと再会するところを止めに行くけれど、ハシがキクに何かしてあげたかって言ったら、特になにもしてない…?端々から、競ってる?試してるように感じる部分もある…。さっき共存関係とか書いたけど、どちらかというとキクの方がハシに執着している気もする。

 

◆狂い出すハシ

ハシが狂うのは舞台において見せ場だけれど、その理由?きっかけについて原作と擦り合わせると、ハシは自分が分裂しているように感じていたのかなと思った。

歌手の華々しい着飾られた大人気の自分と、コインロッカーに捨てられてキクに守られてばかりの惨めな自分。舞台でも「体が二つに割れているだろう!?」みたいな台詞があったけれど多分、二つってそういうことなんじゃないかな。自分が誰なのかわからなくなってくる。母が死に、自分を縛っていたものはなくなったと感じるも、大成功してるはずの歌手サイドのバンドはうまくいかなくなるし、キクは島の恥なのに愛する人がいて(自分にもニヴァがいるのにね…)、自分が死ぬほど聴きたかった音を聴いた、という劣等感に苛まれる。

あと舞台を観て、自分に子どもができたのも精神の揺らぎに関係していると思った。ハシは親に捨てられた立場なので、「子どもを育てる」ということに対して自信が持てなかったのかなあ。

売れた理由の一つに自分の出生のエピソードということもあり、コインロッカーに捨てられたという過去(周りからの同情も含む)はいつまでも追ってくる。それらが人間の顔をした蠅だと思った。(蠅はハシ自身、ここは本当に個人的な感想です…)

そして、今の自分を正すためには心臓の音を聴かなきゃいけないという固定観念→キクは大切な人を殺したから自分もそうすれば聴けるかも!?という思考に至る。

 (これは舞台の補足ですが、ハシがキクとの面会のとき「(音を)浮浪者にいたずらされた時にしか聴いてない!」みたいなことを言っていましたが、原作ではあれはハシが冒頭に催眠術にかけられて暴れて逃げたあと、彷徨い果てて行き着いた公衆便所で浮浪者に襲われた時の話です。)

 

◆ラストシーン

ハシが袋?を被って鎖に繋がれているところ。ハシはニヴァを刺し、精神病棟?施設?監獄?へ隔離されます。恐らく、その時に丁度キクとアネモネは東京をダチュラで爆撃し、東京は死の海に。ハシは解放され、外へ逃げると呆然。(ハシがいた場所は安全区域だった?)死体が転がる無人の街を彷徨うハシ。弱った女を発見する。お母さんだと錯覚、まき散らかれているダチュラを吸うハシ。破壊衝動が起こり女の首を締めようとする。そこでハシは心臓の音を聴く。そしてハシがとった行動とは…(原作を読んでほしいので最後曖昧にしてます)

初演は違ってたらしいけど再演では結構再現されてた。(設定違ったけど!)ここで原作も終わってます。

 

ざっくり、こんな感じです。長すぎるし、間違えてる部分見つけたら編集するかも……とりあえず、舞台と沿った部分を主に書きました。原作のファンなので、どうしてもこういう見方をしてしまう…申し訳ない。

 

ですが、この激濃い登場人物を演じる役者さんたちのエネルギーは凄まじい。そのエネルギーをストーリーの疑問符で掻き消されるのは勿体無いと思ったので、このブログを書きました。

舞台は舞台として完成しているので、この解説?はさまざまなコインロッカー・ベイビーズの見方のうちの一つだと思っていただけたら幸いです。

いろんな角度からこの作品を掘り下げれてよかった。大好きな作品を舞台化してくれてありがとう。

 

 これを見た人が、原作を読む気力が湧いたら嬉しいな。

 

ひとつ、わたしにもまだ不明点。友人がぽつりと言った疑問で、キクは東京を爆破させるつもりだったが、あんなに執着してたハシも巻き込むことは考えていたのかな。確かに…ハシの目的とキクの目的で完全に分離して考えてて、そこあんまり考えてなかった…。どうなんだろう…。

 

 

7/15 追記

 読んでいただきありがとうございます。もし、観劇予定はないけれど舞台が気になった方がいましたら、チケットの一般販売もしているみたいなのでよろしければご参考にしてみてください。当日券の販売もしているのかな…?

音楽劇『コインロッカー・ベイビーズ』 | PARCO STAGE

 

コインロッカー ・ベイビーズ原作

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

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